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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)10612号 判決 1989年2月21日

原告

柴田公代

被告

小林敏彦

主文

一  被告は原告に対し、一〇六八万八五三六円及びこれに対する昭和五五年二月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告その余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、三八三九万九一八五円及びこれに対する昭和五五年二月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五五年二月一九日午前一〇時三〇分ころ

(二) 場所 神奈川県逗子市逗子三丁目二番二四号先路上

(三) 加害車 普通貨物自動車(横浜四四も三〇〇四)

運転者 被告

(四) 被害者 原告

(五) 事故態様 加害者が、積雪のためスリツプして車道から逸脱し、歩道内を歩行中の原告に衝突したうえ、原告を歩道端の石垣に押し付けたもの

2  責任原因

(一) 被告は、加害者を所有し、これを自己のために運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条の規定に基づき、本件事故により原告に生じた後記損害を賠償すべき責任がある。

(二) 被告は、自動車を運転して積雪のある道路を走行するに際しては速度を適切に調節し、かつ、ハンドルを的確に操作してスリツプによる車道からの逸脱を防止すべき注意義務があるのに、これを怠り、速度を適切に調節せず、かつ、ハンドルを的確に操作しないで、漫然と加害車を運転して積雪のある本件事故現場の道路を進行した過失により、本件事故を惹起させたものであるから、民法七〇九条の規定に基づき、本件事故により原告に生じた後記損害を賠償すべき責任がある。

3  受傷状況

原告は、本件事故により第一〇胸髄不全損傷、右膝部打撲、股関節捻挫の障害(以下「本件傷害」という。)を受けたため、昭和五五年二月一九日から同年四月一二日まで(通院実日数二一日)逗子整形外科医院に通院し、同年七月一九日から同年九月一八日まで六二日間井口整形外科病院に入院し、同月一九日から昭和五七年一一月三〇日まで(通院実日数一八日)同病院に通院し、同年三月二四日から同年五月三〇日まで六八日間慶応大学月が瀬リハビリテーシヨンセンター(以下「月が瀬リハビリセンター」という。)に入院して治療を受けたほか、昭和五五年二月一九日から同年七月一八日まで(通院実日数四三日)木村針灸整体院に通院し、同年九月二〇日から昭和五七年一一月二九日まで(通院実日数二八六日)河原治療院に通院して治療を受けた結果、同月三〇日に症状が固定したが(症状固定時満四七歳)、背部痛、腰部痛、右下肢の脱力感・しびれ感、左下肢の軽度の脱力感・しびれ感、歩行・起立障害、体幹の運動障害、右体幹部の知覚鈍麻、膀胱・直腸障害等の後遺障害(以下「原告主張の後遺障害」という。)が残り、右後遺障害は自動車保険料率算定会損害調査事務所(以下「自算会調査事務所」という。)において自賠法施行令二条別表所定の後遺障害等級(以下「後遺障害等級」という。)第五級第二号に認定された。

4  損害

(一) 治療費 二六五万七〇五三円

原告は、治療費として二六五万七〇五三円を支出し、相当額の損害を破つた。

(二) 器具購入費 六万二九〇〇円

原告は、器具購入費として六万二九〇〇円を支出し、相当額の損害を破つた。

(三) 入院雑費 八万五四〇〇円

前記各入院中の雑費は一日当たり井口整形外科(入院日数六二日)分につき五〇〇円、月が瀬リハビリセンター(入院日数六二日)分につき八〇〇円とするのが相当である。

(四) 入院付添費 一七万三六〇〇円

原告は前記井口整形外科への入院中付添看護を要する状態であつたので、原告の家族が付添看護をした。近親者の入院付添費は一日当たり二八〇〇円とするのが相当である。

(五) 通院交通費 七九万六七六五円

原告は、通院交通費として七九万六七六五円を支出し、相当額の損害を被つた。

(六) 通院付添費 六万〇二〇〇円

原告は前記各通院中四三日分については付添を要する状態であつたので、原告の家族の付添のもとに通院した。近親者の通院付添費は一日当たり一四〇〇円とするのが相当である。

(七) 休業損害 三三五万八六〇〇円

原告は、本件事故のため、本件事故発生日の昭和五五年二月一九日から本件傷害の症状固定日である昭和五七年一一月三〇日まで休業を余儀なくされ、相当の損害を被つた。一日当たりの休業損害を昭和五五年二月一九日から同年一二月三一日までについては三〇〇〇円、昭和五六年一月一日から昭和五七年一一月三〇日までについては三四〇〇円として計算すると、休業損害の合計は三三五万八六〇〇円となる。

(八) 逸失利益 二四八〇万八八三二円

原告は原告主張の後遺障害のために将来にわたり逸失利益相当の損害を被つたものであるところ、その労働能力喪失率は七九パーセントとみるべきであり、右算定の基礎収入として月額平均一七万六五〇〇円を採用し、就労可能年数は二〇年間と考えるべきであるから、新ホフマン方式により年五分の中間利息を控除して逸失利益の現価を算定すると、二四八〇万八八三二円となる。

(九) 慰藉料 一四七三万円

原告が本件傷害治療のために入通院することを余儀なくされたが、その間に被つた精神的苦痛に対する慰藉料としては二九四万円、後遺障害が残つたことによる精神的苦痛に対する慰藉料としては一一七九万円の合計一四七三万円が相当である。

(一〇) 損害の填補 一一八二万五〇〇〇円

原告は、被告から三万五〇〇〇円、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)から一一七九万円の支払を受けたので、これを前記損害に填補した。

(一一) 弁護士費用 三四九万〇八三五円

原告は、弁護士である原告訴訟代理人に本件訴訟の提起と追行を委任し、相当額の報酬等弁護士費用の支払を約束したが、このうち本件事故と相当因果関係のある損害として被告が賠償すべき額は三四九万〇八三五円である。

5  よつて、原告は被告に対し、本件事故による損害賠償として三八三九万九一八五円及びこれに対する本件事故の日である昭和五五年二月一九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(事故の発生)の事実は認める。

2  同2(責任原因)の事実は認める。

3  同3(受傷状況)の事実のうち、本件事故により第一〇胸髄不全損傷の傷害を受けた事実、原告主張の後遺障害の内容及び原告主張の後遺障害が現在も残存している事実は否認し、その余の事実は認める。本件事故直後に通院した逗子整形外科医院における診断は右膝部打撲及び股関節捻挫のみであつたのに、本件事故から五か月以上経過した後に受診した井口整形外科病院において初めて第一〇胸髄不全損傷と診断されたものであるから、本件事故と第一〇胸髄不全損傷及びこれに起因する原告主張の後遺障害との間には因果関係があるとはいえない。仮に、右因果関係があるとしても、原告主張の後遺障害は相当程度回復しており、現在では高々後遺障害等級第一二級程度のものが残つているに過ぎない。

4  同4(損害)の(一)及び(一〇)の各事実を認め、その余は不知ないし争う。

三  抗弁

被告は、原告に対して、請求原因4(一〇)記載の支払のほかに三四二万二〇五三円の支払をした。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は認める。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録各記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)及び同2(責任原因)の各事実についてはすべて当事者間に争いがない。

二  そこで、受傷状況について判断する。

原告が、本件事故により右膝部打撲、股関節捻挫の傷害を受けたこと、昭和五五年二月一九日から同年四月一二日まで(通院実日数二一日)逗子整形外科医院に通院し、同年七月一九日から同年九月一八日まで六二日間井口整形外科病院に入院し、同月一九日から昭和五七年一一月三〇日まで(通院実日数一八日)同病院に通院し、同年三月二四日から同年五月三〇日まで六八日間月が瀬リハビリセンターに入院して治療を受けたほか、昭和五五年二月一九日から同年七月一八日まで(通院実日数四三日)木村針灸整体院に通院し、同年九月二〇日から昭和五七年一一月二九日まで(通院実日数二八六日)河原治療院に通院して治療を受けたこと、原告の症状は同月三〇日に固定し、症状固定時に原告は満四七歳であつたこと、原告主張の後遺障害が自算会調査事務所において後遺障害等級第五級第二号に認定されたことは当事者間に争いがない。

右争いのない事実に成立に争いのない甲第五号証、同第六号証、同第七号証の一ないし五、同第一〇号証、同第一三号証、乙第八号証、同第一二号証、同第一三号証の一ないし四、及び同第一五号証の二、原本の存在・成立に争いのない甲第一号証、同第三号証、乙第一号証ないし第五号証、同第七号証、同第九号証(甲第三号証と同一のもの)、同第一九号証及び同第二〇号証、証人井口傑、同木村彰男及び同柴田昭司の各証言、原告本人尋問の結果(但し、証人柴田昭司の証言及び原告本人尋問の結果のうち後記措信しない各部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実を認めることができ、証人柴田昭司の証言及び原告本人尋問の結果のうち右認定に反する各部分は前掲各証拠と対比して措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

1  原告は、本件事故直後に治療を受けた逗子整形外科医院において右膝部打撲及び股関節捻挫と診断され、右膝部及び腰部のレントゲン検査では特に異常は発見されなかつたが、右膝関節痛及び腰痛等があり、それを緩和するために湿布、投薬及び理学療法の処置を受けた結果、下肢痛は軽減したものの、腰痛は持続し、長時間の起位が困難であつたことから、井口整形外科病院に入院して検査・治療を受けた。同病院において、原告は、胸部についてのレントゲン検査を受け、その結果第一一胸椎の右下極に陰影が認められたため、更に脊髄造影法による検査を受けたが特に異常は認められなかつたものの、理学検査では右下肢のしびれ・筋力低下及び第一〇胸髄から第三腰髄に関する知覚障害等が認められたため、第一〇胸髄不全損傷と診断され、湿布、投薬及びリハビリテーシヨン等の処置を受け、その結果、腰痛の軽減及び知覚の回復の兆しがあつたが、退院後の通院治療によつても症状は寛解しないまま推移し、歩行には杖等の補助具が必要であり、頻尿及び便秘等の症状を訴えるようになり、尿路感染症の疑いが認められた。その後、原告は、本格的なリハビリテーシヨンのために月が瀬リハビリセンターに入院して治療を受けた結果、腰痛は電気治療器による治療で軽減し、日常生活動作も改善されたが、右下肢のしびれ・筋力低下及び第一〇胸髄から第三腰髄に関する知覚障害が残存し、歩行についても外出等の場合には杖等の補助具が必要であつた。

2  医学上の一般的知見によれば、脊髄の損傷は主として外力の作用により発生し、損傷自体をレントゲン検査等で確認できないような場合もあるが、損傷の生じた部位・程度によつて臨床症状が異なり、四肢等の運動障害、感覚障害、腸管機能障害、尿路機能障害又は生殖器機能障害等が発現すること、胸髄の下部から下の部位の損傷の場合には、下肢が完全に麻痺したり、あるいは多少運動ができても感覚が鈍麻すること、右各障害は、必ずしもすべてが不可逆的ではなく、損傷の程度によつては自然経過又は治療によつてある程度回復するとされている。

3  右2で認定した医学的知見に照らし、右1で認定した原告の症状を検討すると、右原告の症状は胸髄損傷によつて発現するとされる臨床的所見に合致するものであり、本件事故の前後を通じて本件事故以外に胸髄損傷を生じさせるような外力が原告に作用したことを認めるに足りる証拠はないから、本件事故と原告の第一〇胸髄不全損傷との間には因果関係があると推認することができ、原告主張の後遺障害も存在するに至つたものと推認するのが相当というべきである。

4  ところで、原告は、原告主張の後遺障害がなお残存しており、前示のとおり、自算会調査事務所が、原告には昭和五七年一一月三〇日症状の固定した後遺障害が残存し、右後遺障害につき後遺障害等級第五級第二号に該当すると認定したことに基づき、労働能力の七九パーセントを喪失したと主張している。しかしながら、前掲甲第三号証、同第五号証、同第六号証、同第七号証の一ないし五、乙第九号証及び同第一三号証の一ないし四によれば、原告の右後遺障害は井口整形外科病院の井口傑医師が発行した昭和五七年一一月三〇日付の自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書(前掲甲第三号証、乙第九号証)に基づいて等級認定されたものであり、右診断書の検査結果欄には、X―P上第一一胸椎右椎弓根部の変形、ミエログラムでの陰影欠損(前方圧迫)、T10以下の知覚鈍麻、下肢反射の亢進、賢盂・膀胱造影にて賢盂の拡大と膀胱の萎縮像、下肢筋力(EHL、EDL、TA右3~4)低下との記載があるが、右記載のほとんどは原告が同病院に入院している昭和五五年七月一九日から同年九月一八日までの間に行われた検査結果に基づくものであることが認められる。また、前掲乙第八号証及び同第一五号証の二、成立に争いのない乙第一一号証、同第一四号証、同第一六号証及び第一七号証の各一、二、同第二一号証及び同第二二号証、証人高野義一の証言並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、昭和五七年三月二四日月が瀬リハビリセンターに入院する際に、用便、入浴、衣服の着脱及び食事を一人ですることができ、杖なしでも歩行ができる旨の申告をしていること、同センターにおける入院治療の結果、日常生活動作(ADL)が改善され、床からの立ち上がり動作を除く日常生活動作のすべてを介助なしでできるようになり、疼痛も軽快したこと、昭和六二年三月一日に外出した際杖を使用していたものの普通の速度で歩いていたことが認められ、原告主張の後遺障害はある程度回復していたものと推認することができた。そこで、当裁判所は、原告の後遺障害の回復の程度及びそれを前提とした労働能力の喪失割合を明らかにするため、第一六回口頭弁論期日において嘱託先を東京慈恵会医科大学病院とし、原告本人の検査・診断を前提とする鑑定の嘱託をし、同大学は室田景久教授を担当者に選任したが、原告が、一度は同教授の診察を受けたものの、鑑定に必要であつて肉体的苦痛を伴わないMRI(核磁気共鳴検査)等の検査を受けることを頑なに拒絶したため鑑定不能となつた。したがつて、当裁判所としては、原告主張の後遺障害が現在どの程度残存しているかを仔細に認定するための資料がないまま、口頭弁論を終結せざるをえなかつた。

以上の事実を前提に判断するに、原告主張の後遺障害はある程度回復していたことは推認できるものの、原本の存在・成立に争いのない乙第一八号証及び証人木村彰男の証言によれば、日常生活動作(ADL)の評価は、主に障害者が日常生活における身の回りの動作を一人でできるかどうか、リハビリテーシヨンの目的をどう設定するか等のために用いられているものであつて、家事又は職業労働の能力喪失の程度を評価するためのものではないから、原告の日常生活動作(ADL)評価に改善がみられたからといつて直ちに家事又は職業労働の能力が回復されたということはできず、前示のとおり、原告は、昭和六二年三月一日の時点で外出することができたものの、歩行には杖が必要であつたのであるから、原告には少なくとも第一〇胸髄不全損傷を原因とする歩行障害が残存しており、右障害は家事労働に少なからぬ影響を及ぼすものと認められ、原告の労働能力の喪失程度は健康な主婦の五割程度と認めるのが相当というべきである。

三  進んで、損害について判断する。

1  治療費 二六五万七〇五三円

原告が本件事故によつて生じた傷害の治療費として二六五万七〇五三円を支出したことは当事者間に争いがなく、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

2  器具購入費 六万二九〇〇円

成立に争いのない甲第一一号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は本件事故によつて生じた傷害の治療のためにコルセツト、低周波治療器及び腰椎装具等の器具購入費として六万二九〇〇円を支出したことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

3  入院雑費 八万五四〇〇円

前記二で認定した入院日時及び入院期間を考慮すると、入院雑費としては一日当たり井口整形外科病院(入院日数六二日)分につき五〇〇円、月が瀬リハビリセンター(入院日数六八日)分につき八〇〇円と認めるのが相当である。

4  入院付添費

入院付添費については付添看護の必要性を認めるに足りる証拠がない。

5  通院交通費 七九万六七六五円

成立に争いのない甲第一一号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は本件事故によつて生じた傷害の治療のために通院交通費として七九万六七六五円を支出したことが認められ、右は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

6  通院付添費

通院付添費については付添の必要性を認めるに足りる証拠がない。

7  家事に従事できなかつたことによる損害 二四五万四四八〇円

原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故当時主婦として家事に従事していたことが認められるところ、前記二で認定した受傷状況及び治療経過に徴すると、本件事故の発生日の昭和五五年二月一九日から本件傷害の症状固定日の昭和五七年一一月三〇日までの間家事に従事することがなく全く不可能であつたものとは認め難いから、右の期間のうち入院期間中の一三〇日間については一〇割、その余の期間については七割程度家事に従事することが不可能であつたものと認めることとし、原告が右のように家事に従事できなかつたことによつて被つた損害は、基礎収入につき本件事故当時の賃金センサス昭和五五年第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計・全年齢平均女子労働者の平均賃金年額一八三万四八〇〇円の範囲内である原告の主張額を採用し、一日当たり昭和五五年二月一九日から同年一二月三一日までについては三〇〇〇円、昭和五六年一月一日から昭和五七年一一月三〇日までについては三四〇〇円として算定すると、次の計算式のとおり、二四五万四四八〇円となる。

昭和五五年一二月三一日までの分について

(六二日+二五五日×〇・七)×三〇〇〇円=七二万一五〇〇円

昭和五六年一月一日以降の分について

(六八日+六三一日×〇・七)×三四〇〇円=一七三万二九八〇円

8  逸失利益 一〇九七万八九九一円

前記二で認定した原告の後遺障害の内容及び程度に徴すれば、原告は症状固定時の満四七歳から満六七歳に達するまでの二〇年間にわたり五割に相当する労働能力を喪失したものと認めるのが相当であるから、原告の逸失利益の本件事故時における現価は、症状固定時の賃金センサス昭和五七年第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計・全年齢平均女子労働者の平均賃金年額二〇三万九七〇〇円を基礎収入とし、ライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して算定するのが相当であり、したがつて次の計算式のとおり、一三一七万四七八九円となる(一円未満切捨。)。

二〇三万九七〇〇円×〇・五×(一三・四八八五-二・七二三二)=一〇九七万八九九一円

9  慰藉料 八〇〇万円

本件傷害の内容と程度、治療の経過、本件後遺障害の内容と程度、原告の年齢その他本件審理に顕われた一切の事情を勘案し、本件事故により原告が被つた精神的苦痛に対する慰藉料は、合計八〇〇万円と認めるのが相当である。

10  損害の填補 一五二四万七〇五三円

原告が被告から三四五万七〇五三円、自賠責保険から一一七九万円の各支払を受けた事実は当事者間に争いがなく、右の限度で原告の前記損害は填補されたものというべきである。

11  弁護士費用 九〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故に基づく損害賠償請求権につき被告から任意の弁済を受けられなかつたため、弁護士である原告訴訟代理人に本件訴訟の提起と追行を委任し、その費用及び報酬の支払を約束したことが認められるところ、本件訴訟の難易度、認容額、審理の経過、その他本件において認められる諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、一〇〇万円と認めるのが相当である。

四  以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、被告に対し一〇六八万八五三六円及びこれに対する本件事故の日である昭和五五年二月一九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを正当として認容するが、その余は理由がないので失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 柴田保幸 岡本岳 竹野下喜彦)

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